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ぬるい懐古オタクがだらだらと語るだけ。

映画版「風の谷のナウシカ」(1984)再考

ナウシカ歌舞伎化という意表をつかれたニュースを見て以来、「風の谷のナウシカ」を読みたくなったんですが、現物はまだ実家に置いてある…。ということで、ナウシカ成分を補うために、久しぶりに(20年振りくらい?)アニメ映画版「風の谷のナウシカ」を視聴しました。

 

映画単体のみで見ると、悪くないと思います。ただ、漫画版と比べるとどうしても凡庸に見えてしまうんですよね。漫画版は世界観がもっと複雑で、ユニークなキャラクターが多少なりとも掘り下げられているからね。長期連載を経て宮崎監督の思索の過程が見えてくる、非常に尖った出来なので、私は宮崎監督のすべての作品の中で、漫画版「ナウシカ」が最高傑作だと思うんだけど、そんな先鋭的な漫画版という比較対象があるのはこの映画にとって不幸なことだったのかもしれない。

 

で、この映画版を漫画版に比べて批判するというのもあまり建設的ではないので、いいところを探してみることにします。(色がついて、動いて、音が出る、という以外に)

 

1) 胸躍る冒険活劇

漫画版は冒険活劇とはとても言い難いのですが(要素はあるけど、戦記ものに近いような…)、映画版は冒険活劇と言ってもいいと思います。初期の宮崎監督作品らしい胸躍る出来ですね。私は特に、コルベットの空中戦が好きです。漫画版では、クロトワのコルベット操船がめっちゃカッコいいんですが、まあ動きがあるアニメには分が悪いですね。特にアニメオリジナルの、コルベットがペジテのブリックに取り付くシーンは、「未来少年コナン」のギガント戦を思い起こさせて、すごく好きだ。

 

2)ボーイミーツガール

宮崎監督初期の冒険活劇に欠かせないのが、ボーイミーツガール! 今回、映画版を見ていて、記憶にある以上にアスベルとナウシカがボーイミーツガールしていたので、結構驚きました。映画の最後で、アスベルがナウシカを持ち上げてクルクルしているのって、コナンとラナって言われてもおかしくないくらい。しかもエンドロールで、アスベルは風の谷の風車を修理するのを手伝っていたりするし。(ペジテの再建はどうなったんだよ、おい!とツッコミを入れたいところ)

このボーイミーツガールが好きな人は、漫画版の最後は受け入れ難いですよね。アスベルはナウシカを諦めて、ケチャとくっつきそうな気配だし、ナウシカはセルムとくっつきそうな感じだからねぇ。

 

3)ハッピーエンド

クシャナは撤退して、風の谷には平和が訪れましたっていう感じのエンドロールですね。私はハッピーエンドというものに殆ど興味がないのですが、ハッピーエンドの方が一般受けするというのもわかります。漫画版はバッドエンドではないけど、結構陰鬱な終わり方だったからねぇ。ナウシカに全く笑顔がないという......。

 

4)エンターテインメント

 漫画版は全くエンターテインメントとはほど遠いのですが(でもそれがイイ!)映画版はエンタメを意識した造りになっていると思います。ナウシカが仮死?状態で甦るところがその最たるものですかね。私は好きじゃないですけど…。漫画版で、ナウシカが静かに王蟲の幼生にお別れするシーンの方がナウシカの優しさが出ていていいと思うけど、映画版のドラマ性を重視してあういう筋書きにしたのはわからないでもないけど。

あと、劇伴もメロドラマチック。(でも、私にはベタ過ぎるように聞こえる…)

一般的に宮崎監督の映像作品はすごく好きなんですけど、唯一あまり好きじゃないのが劇伴の使い方。盛り上がるシーンに盛り上がる音楽を使うというのはまあそうなんでしょうけど、もう少し意外性が欲しいなぁと贅沢なことを思ったりもします。個人の好みでしょうけど。

 

ということで、あの漫画版はとっつきにくいという人たちがいるらしいし(私はそう思いませんが)、とっつきやすいという意味ではこの映画版のほうが一般受けするのはわかるし、漫画版への足掛かりになればいいかなと思います。

私の超個人的意見では、映画版の最大の功績はクシャナ殿下のCVを榊原良子さんにされたこと! 榊原さんは当時まだお若くて駆け出しのころでいらっしゃったと思うんですけど、よくぞ抜擢してくださった!音響監督の斯波重治さんのおかげかしら? 斯波氏は押井監督のOVA「ダロス」と映画「うる星やつら オンリーユー」で榊原さんを使っていらっしゃるからね。(押井監督はこのころから榊原さんと仕事していらっしゃるのよね、よく考えれば…)

 

ところでこの「風の谷のナウシカ」が公開された1984年はアニメ映画史に残る年だよね。押井監督の「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」と河森監督の「超時空要塞マクロス 愛おぼえていますか」も公開されたなんて、いやあすごい年だ。

当時子どもだった私は、「愛おぼ」に夢中でした。(やっぱりロボットアニメが好きだった…)キャラとしては早瀬中尉派だったのですが(当時から年増好き)、ミンメイの歌が好きで、よく歌っていました。

映画版ナウシカは好きではあったんですが、ひょんなことから書店で見つけて買って読んだ漫画版の方にむしろ衝撃を受けました。なので、私にとっては子供時代のかなり早い段階から漫画版>映画版の構図が出来上がったしまったので、映画版に関しては結構醒めた目で見ていたような。(イヤな子どもだったかも)

「ビューティフルドリーマー」は大人になってから見たんです、実は。子供のころからうる星やつらが好きじゃなかったので、食わず嫌いをしていたのですが、大人になって押井監督に興味を持ってから見てみると、衝撃を受けました。今でもときどき見ています。

今にして思うと、映画版の「ナウシカ」が原作の持つ前衛性や哲学性を削ってエンタメにしたのに対して、映画「ビューティフルドリーマー」は高橋先生の原作世界のエンタメ性を否定して(逆手にとって)、前衛的な作品に仕上げたという点が対照的で面白いですね。