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ぬるい懐古オタクがだらだらと語るだけ。

漫画「進撃の巨人」最終巻(34巻)を読んだ!

表題の通り。最終巻を読みました。

扉頁の次にある登場人物紹介がなくなっていましたねぇ。これはよかった。正直、ハンジさんの顔にバツマークがつくのを見たくなかったので。

最終巻の読者に今更人物紹介も必要がないということなのでしょうが、まあそれなら今までだって必要なかったわけだし。ミケの顔にバツがつけられているのを見たときはすごく悲しかったから、ハンジの顔にバツがついているのを見たら泣いちゃうかもと覚悟していました。こういう悪趣味なのが進撃だとわかっているんだけど、地鳴らしに巻き込まれ遺体すら残らなくてちゃんと弔ってもらえなかったことを思うと、もうこれ以上ハンジさんの死を悪趣味に晒されたくない。

 

さて、最終巻の私の興味は最終話の加筆修正箇所でしたが…。

(以下ネタバレ全開です)

 

 

期待は全くしていなかったのですが、とりあえず要点:

1)作者様はとんでもなくミカサ厨(エレンに自己投影の上で)

2)玉虫色のエンディング

 

1)ミカサの行方

加筆のほとんどがミカサ関連なのが笑っちゃいました。進撃ってメインキャラでもがんがん殺すし、いわゆるキャラ厨をあざ笑うような芸風の漫画だと思っていたんですけど。でも、一番キャラ厨だったのは原作者様だったなんて。加筆箇所からは、俺のアイドルミカリンを批判するのは許さない!という気合を感じました。あ、でも処女厨じゃないのは男性作家さんにしては珍しいかな。(むしろNTRが性癖なのかもという疑惑も湧き上がってきますが)

始祖ユミルとの会話は良かったと思います。彼女はきちんと王を殺すことができたし、自らを解放することを説いたのが(エレンじゃなくて)ミカサだというのも。でも、結局、これって始祖ユミルの解放と自立を描くというよりは、ミカサのキャラとしての説得力を増やすためだけに加筆したっていう感じに見えるんだよねぇ。ミカサがキーのはずなのに、ミカサと始祖ユミルの関係が全く描かれていなかったからね。ただ、まあこれで、始祖ユミルの解放&ミカサとの関係を描けて、一安心?

でも、肝心のミカサの自立なんですが、もやもやするなぁ。

ジャンはいい奴だし、ミカサを大切にしてくれると思うんだけど、あの描写だと、ジャンにちょっと失礼なんじゃない?と思ってしまう。ミカサのエレンへの愛は最期まで変わらなかったと言いたいんだろうけど、ジャンが結局ミカサとエレンに都合よく使われているだけに見えて微妙。ジャンのミカサへの初恋は、ライナーがヒストリアに妄想しているようなネタだと正直思っていたんで。

結局、全てがエレン(&ミカサ)に都合のいい世界だというのは十分わかっているんだけど、他のキャラをこれ以上その犠牲にしてほしくなかった。結婚するなら、ヒストリアみたいにモブとしてほしかったよ。(まあ、顔を出していないから、あれはジャンじゃなくてモブだとあとで言い訳もできるんだろうけど)

私は、ミカサが死ぬまでエレンのことを想っているのは別にいいと思うのよ。ただ、エレンへの思いとは別に、彼女には立ち上がって自分の人生を生きてほしかっただけなのに。

ヒストリアの孤児院を手伝うとか、キヨミさんと一緒にヒィズルとパラディ島の架け橋になるために働くとか、エレンを想いながらもミカサらしく生きることはできたはずなのに…。そういうミカサが正直見たかったです。これじゃあ結婚して子どもを産むことがミカサの自立で大人の責任ですと言わんばかりだよね。(まあ、ヒストリアの扱いを見ても、女は子どもを産んで大人になるという考えが透けてみえるんだけど…)

女性ファンにミカサを批判されたくないけど、ジェンダーにうるさい読者が望むような自立した女にしたくないということで、こういう加筆をしたのかね。ま、いいんだけど。

 

2)玉虫色のエンディング

各方面から批判されても言い訳できるように防衛線を貼りまくったという感じ。

虐殺に関して加筆も修正もなしですね。アルミンのありがとうも、「過ち」が「最悪の過ち」になった程度で、なんら虐殺の否定になってもいないという。

このシーンですがネームを見ると、もともとは

「僕達のために人類を虐殺してくれてありがとう」

なんですよね。で、「ありがとう」を消して、その前のコマにもってきて、「人類を虐殺してくれて」を「さつりく者になってくれて」と変更しているのがよくわかります。

「ありがとう」を前にもってきて倒置にしたのも「人類を虐殺して」を「殺戮者になって」と変更したのも印象を和らげるためなのでしょうが、意味は変わらない。人類虐殺を感謝しているだけ。

エレンの「犠牲」に104期のみんなが涙するのも、能天気な大使ご一行も、アルミンの押しつけがましいナレーションもそのままですね。

まあ、期待はしていませんでしたが。

ただ、最期に加筆されたのが、パラディ島が戦争で爆撃され破滅し、巨大樹だけが大きく残されているという点。(この巨大樹は始祖ユミルがムカデに遭遇したところとそっくり)

なので、未来の暗示として

1.パラディ島の破滅

2.巨人の復活する可能性(犬を連れた少年がムカデに遭遇する可能性の暗示)

の2点が加筆されたのは興味深いかな。

パラディ島の未来が不確定なのは、雑誌掲載版でもなんとなく匂わせていたけど、破滅が明確に描かれたのは、どう解釈すればいいのだろう。

地ならし肯定派の読者は、やっぱり人類を10割虐殺すべきだったと言いだしそうだなあ。で、島の破滅は地ならし阻止隊の妨害のせいだと批判しそうなんですけど。ただ、阻止隊を組織したハンジを批判の的にするのはお門違いだから、文句があるならエレンとアルミンに言ってくれ。エレンがアルミンたちをコントロールしなかったせいで地ならしは完徹しなかったわけだし、アルミンたちが問題を解決できず先送りにした結果で子孫はそのツケを払うことになったわけで。にしても、ハンジさんがイェーガー派の読者から「問題を先送りにしているだけだ」と散々批判されていたけど、エレンもアルミンも同じ結果になっているよね。(全く、ハンジさんだけなんであんなにヘイトを集めていたんだろう。ハンジを批判の矢面に立たせるような描き方をしたからだろうけど。←まだ怒っている)

個人的に巨人復活(ムカデ生存?)の可能性は割と好きかも。巨人と人類が共存する世界が見たいな。

 

で、玉虫色だと思えるのは地ならし賛成派にも反対派にもどうとでも取れるように描いているからねぇ。

人類8割虐殺することでエレンが達成したこと

1.少なくともアルミンたちや104期の仲間は寿命を全うしたように見える

2.当面の間はパラディ島は生き延びた

達成できなかったこと

1.パラディ島の未来における平和

2.巨人の完全根絶

ということかね。私としては、虐殺で達成できるものがあると描かれることを問題視しているので、この玉虫色の結末に納得はしませんが、雑誌掲載版よりも若干マシになったとは感じています。(少なくとも、達成できなかったことも描かれたので)

 

最後に、今回の加筆でどうしてもいいたいことが一つ。

エレンの墓に作者様は非常にこだわっているようだけど、墓参り描写を見るたびに、埋葬どころか遺体すら残らなかった地ならしの被害者のことに思いを寄せます。人類の8割が踏みつぶされて虐殺されて、墓どころか遺体もない、弔ってくれる人すらいないというのに、その虐殺を引き起こした本人は、愛する人に大切に埋葬され、小さなお墓も立ててもらい、友人たちもお墓参りに来てくれるなんて、いい待遇だね。

ミカサがエレンの生首を持って「エレンはきちんと埋葬させてもらえない」というセリフを見ると、本当に、虐殺で死んだ人たちのことは作者様の頭にないんだなというのがよくわかります。でなければ、こんなセリフをヒロインに吐かせないでしょ。

「エレンから離れたくない。私が埋葬する」とかいうセリフで十分にミカサの愛情を表現できたと思うんだけど。虐殺で死んだ人のことを全く考慮していない、エレンやその仲間さえちゃんと埋葬してもらえればそれでいいというのが、よく見えてくるよ。

この「埋葬させてもらえない」というセリフの何が一番嫌いかというと、人のせいにしていること。他の人に「させてもらえない」からこうする、というんじゃなくて、本当は自分がしたいからでしょう。この「人のせい」にするのはここのミカサだけじゃなくて、ずっとそうだよね。エレンが地ならしを始めたのも、「ハンジたちが無能で、仲間を守るために仕方がない」から地ならしをしたという風に見せているけど、やりたいからやったということをごまかして、他人のせいにし、自分の欲望をごまかしている。(この問題は以前のエントリーでも書いたけど)

ただミカサちゃんを責めるつもりはないです。彼女は虐殺を止めようと立ち上がったし、エレンにとどめをさしてくれたので。エレンを含めてキャラに罪はないと思っています。

 

虐殺被害者がモブだから…という言い訳には納得しません。(その理由は、以前のエントリーで書きました)

 

banana-snow.hatenablog.com

 

長々と失礼しました。最後まで読んでくださってありがとうございます。

進撃は魅力的なキャラがたくさんいて、諌山先生はキャラの立て方(特に脇役キャラ)が上手いと本当に思います。あと、人の感情のネガティブな部分を描くのも。

それは、先生のたぐいまれなる才能だと思うので、余計にこの顛末が残念に思うのかもしれない。人に勧められない作品になってしまって、本当に残念だ。個人的には、人種差別や虐殺というセンシティブなトピックを扱うのだから、ブレインを集めてサポート体制を作れなかった編集部の責任が大きいと思う。