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ぬるい懐古オタクがだらだらと語るだけ。

Stephen Nomura Schible 「Ryuichi Sakamoto: Coda」 (2017)

Stephen Nomura Schible (スティーブン・ノムラ・シブル)監督の "Ryuichi Sakamoto: Coda" を見てきました。

坂本龍一氏に関するドキュメンタリー映画なのですが、私の心の琴線に触れたようで、胸が一杯になりました。最近仕事で行き詰っていたので、個人的な事情とオーバーラップさせてしまったからなのかもしれませんが。

 

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ポスター

上映した映画館は20人くらいしか入れない、試写室のようなミニシアターでした。あまりの小ささに一緒に見に行った友人と思わず顔を見合わせてぷぷっと噴き出してしまいました。平日の夜で、観客は10人くらい。むしろ10人もこんなマイナーな映画を見に来るのか!と驚きました。

 

以下雑感です。ネタバレありなのでご注意ください。

 福島の被災地から映画は始まります。津波をかぶったけど生き残ったピアノ。地元の体育館で被災者の方々の前でこのピアノを弾く坂本氏。弾く曲は、あの有名な戦場のメリークリスマス。もうあのメロディーが流れてくるだけで胸が一杯になる・・・。

そして映画のタイトル。

坂本氏の日常生活が描写されます。ご自身の癌について淡々と語る坂本氏から、クスリを飲んだり、作曲活動をしたり、フルーツを食べたり。

この日常生活の中で坂本氏の好きな映画の話(タルコフスキーの惑星ソラリス)がはじまります。あとは、ゆるく70年代からの過去の音楽活動(YMO時代)、そして一気に映画音楽のスターになった「戦場のメリークリスマス」の話、そして「ラストエンペラー」の映像が織り込まれています。坂本氏の回顧的コメントもちょくちょく入っているのがいいですね。私は「ラストエンペラー」が大好きなので、その時のエピソードが見られてそれだけでもう満足。

後半部分は彼の音を追及する旅について。日常生活からアフリカ・南極まであらゆるところで音を追及するんですが、これもなかなか面白いんです。一番印象的だったのが、南極で、氷の中に録音機を垂らして(ワカサギ釣りをするみたいに)、氷の下に流れる南極の水音を録音するところです。「fishing」とご本人も仰っていたんですけど、その表現がとても詩的で気に入りました。音を釣るっていいなぁ。

 

私は音楽家としての坂本氏と反核運動家としての坂本氏の両面をどう調和させていらっしゃるのかとても興味があるのですが、その点をもう少し突っ込んで聞いて欲しかったかな。福島第一原発の事故がご自身の音楽活動にどれほどの衝撃を与えたのか、聞いてみたかった。音楽家として社会に対して実際に行動していらっしゃるのを私は尊敬しています。(実際、不満があっても行動できる人は少ないでしょ。私も含めてだけど、原発に反対していても行動に移せる人は少ないもの。色々しがらみもあるし。)社会に対して責任を果たそうとする芸術家のよいロールモデルでいらっしゃるので、もう少しその点に関して突っ込んだインタビューがあって欲しかったとも思います。

 

映画の終わり方は一見尻切れトンボに見えるので、映画館で「え?終わり?」と戸惑ったのですが、よく考えてみるといい終わり方だと思います。(思いっきりネタバレですが)、冬の寒いときに坂本氏がピアノを弾いていらっしゃるんですね。でも、指がうまく動かない。で、「毎日練習しないと指が動かないなぁ」とおっしゃっていて、「毎日練習します」で締め。なんというか、日常の積み重ねが示唆されている感じでよかった。勿論、癌を患っておられる氏にとっては、この日常が続くかなんてわからないんだけど(もちろん、それは全ての人にとって言えることだけど)、それでも日常が続くよっていうのが淡々と伝わってきて、好きです。

 

 私は坂本龍一氏をすごく尊敬しているけど、ファンと言えるほど詳しくはないって感じですが、そんな私でも見てすごくよかったと思います。音楽好き・映画音楽好きならお勧めかな。